家庭医療に触れて、医療への考えが変わった。
6年前に縁あってこちらに転職しました。それまでは急性期の病院が長く、最初は家庭医療のこともまったく知りませんでした。栄町ファミリークリニックで働くようになってまず驚いたのは、時間の流れ方がまったく違うことでした。急性期では急変の患者さんや入院対応など目の前で起こることに対し、予測を立てながらいかに早く対応するかが求められます。クリニックにはお年寄りから赤ちゃんまで幅広い年齢の方々が来ますし、「喉が痛い」「腰が痛い」「眠れない」といった普段よく経験するような症状をお持ちの患者さんも多く来られます。自分の経験がどう生かせるのか心配でしたが新しいことを学びながらうまく経験とケアが結びついたときは自分の成長を感じることができました。
考えが大きく変わったのは訪問診療がきっかけです。訪問先の患者さんが、偶然にも前職で私が胃瘻のケアをしていた方だったんです。病棟にいた頃は経管栄養をつなぐのは私の仕事だという思いがあったのですが、それを今はご家族がされている。「患者さんが退院した後にこういう生活が続いているんだ」「これが継続性のある医療なんだ」と、医療に対する考え方が変わりました。
訪問診療に関していえば、多職種連携がコアな部分であり、都市部の場合は事業所も関わる人もとても多く、どこか⼀つ途切れてしまえば、患者さんに適切な医療が提供できなくなるので非常に神経を使います。私たち看護師がさまざまな医療従事者の間に立ってつなぎ、情報の流れをスムーズにすることも重要な務めです。
そうした中で医師との関係性はとても重要です。訪問診療で医師に同行するときは移動中も常にディスカッションをして、治療方針や医師の考えを把握し、訪問先に臨みます。もちろん対等な関係とはいいませんが、最も医師に近いパートナーとしてサポートし、チームとして機能することが求められます。だからボーッとしていられませんよ(笑)。
本当の意味での、患者中心の医療。
家庭医は時間をかけて患者さんやご家族の話に耳を傾け、その方の思いや生き甲斐を大切にします。ご家族でお看取りをする場にも何度か立ち会わせてもらいました。強く印象に残っているのは乳がんを患った40代の女性のお看取りです。がんがかなり進行したある日の訪問で、本人から「苦しいので薬を使って眠らせてください」とお願いがありました。するとご主人が「あと一日だけください」と頭を下げました。翌日訪問すると、よほど泣いたのでしょう、ご主人の目はすっかり腫れていました。奥さまはかなり意識も混濁した状態でしたが、しっかり起き上がり、医師に「ありがとうございました。お薬を使ってください」と言ったんです。そのときの患者さんの目を忘れることができません。薬を使いお休みになられ、翌日息を引き取りました。改めて生きるということを考えさせられました。
あの瞬間にご主人が時間が欲しいと言い出せなかったら?本人の苦しさを見かねて薬を使っていたら?正解はないけれど、それまでの患者さんやご家族との関わりがあったからこそ、“かけがえのない一日”が生まれたのだと理解しています。
「病院で亡くなる」というあたりまえが変わりつつある今、家庭医はもちろんですが、家庭医療を理解する看護師も必要不可欠となっています。私のように、家庭医療の現場で働く中で医療や看護に対する考え方が大きく変わることもあるでしょう。今、大きな病院で働いている方にとってもやりがいのある仕事だと胸を張って言えます。皆さんのご応募をお待ちしています。
プロフィール
山﨑 礼子
看護師
栄町ファミリークリニック 師長
札幌市出身。
看護師28年目。
高度救命救急センターや急性期病院を経て、2014年より栄町ファミリークリニック。
2021年プライマリ・ケア看護師認定。