家庭医療診療所・クリニックは、大規模病院や他の診療所・クリニックでの働き方とどのように異なるのでしょうか。北海道家庭医療学センターの郡部診療所(寿都町)、都市部診療所(札幌市)、訪問看護ステーション(千歳市)で働く看護師の皆さんが、「家庭医療診療所で働く」をテーマに本音で語ります。

対談看護師

宮本久美

看護師長
寿都町立寿都診療所

目時みちよ

看護師

山﨑礼子

看護師長

栄町ファミリークリニック

鷹巣香織

管理者/看護師
向陽台訪問看護ステーション

「診療所」のイメージとのギャップに戸惑いも。

山﨑礼子

今日は家庭医療診療所・クリニックで働くことって、実際どうなんだろう?という話を、それぞれの現場をよく知る皆さんから聞けたらと思います。私もそうだったけど、最初にここで働くとなったときに、イメージしていた診療所での働き方とかなりギャップがあったので、その辺りからまずは聞かせてもらえたら。

宮本久美

じゃあ、私から。私も病院で働いていたことがあります。当時は病棟で12~3人の患者さんを受け持っていました。だから、病床数の少ない寿都診療所(19床)へ来たときには「簡単に回せるだろう」と思っていたんです。ですが、一人の患者さんへの関わり方が濃密で、入退院の調整などとにかくやるべきコトが多く、実際には5人を受け持ったら手いっぱい。業務内容が病院とはかなり違って戸惑いましたね。

目時みちよ

「これとこれをやればOK」といったように業務内容がきっちり決まっているわけではなく、患者さん一人ひとりに対して細やかなケアや柔軟な対応が求められます。ただ、それが逆に仕事の充実感につながっているのかなと思います。

山﨑礼子

栄町ファミリークリニックの場合は病棟がないので、外来業務と訪問診療業務のふたつが主な仕事です。基本的にはどちらか一方ではなく、看護師一人で外来と訪問診療の両方を受け持ちます。訪問診療は、医師一人に看護師一人がついて患者さんのお宅を訪問します。一方でクリニックでは外来対応がメインですが、その間にも訪問患者さんや訪問看護師さんから問合せの連絡が入るので、ゆっくり座るようなヒマはないですね。

目時みちよ

そうですね。うちも「地方の診療所でのんびり働きたいな」と思って来ると、イメージとのギャップに戸惑うんじゃないかな。鷹巣さん、訪問看護ステーションはどうですか?

鷹巣香織

訪問看護は特殊ですね。簡単に説明すると、訪問の時間は1軒あたり30分~1時間半。そこに移動時間が加わって、一人で回れるのは午前3軒、午後3軒ぐらいです。一人がずっと同じ利用者さんを担当するかというとそうではなく、いろいろな人が交代で訪問します。利用者さんに急変があった場合に、誰でも駆けつけられるようにするためです。訪問回数やケアの内容は利用者さんによって異なりますが、決められた時間内に、健康状態の観察や療養指導、医療器具の管理はもちろん、次の訪問まで利用者さんが安心して暮らせるようさまざまな調整を行います。病院や診療所を経て、初めて訪問看護を経験する方は業務の違いに驚くかもしれませんね。

山﨑礼子

業務内容で戸惑ったことといえば、私の場合は連携です。訪問看護師さんから連絡を受けたり、訪問患者さんのご家族から電話相談を受けても、最初は自分の立場でどこまで何を伝えていいものか迷いました。だんだん慣れて要領が分かるようになったところで、これは先生に確認すべきとか、まずは看護師目線でアドバイスすることで安心感が与えられるとか、そういう判断ができるようになりましたね。

目時みちよ

多職種連携は、それまでのキャリアで経験したことのない看護師がほとんどなので、最初はつまずきますよね。でも、関係性や仕組みさえ理解すれば、自分なりにコーディネートできるから、すごくやりがいにつながります。たとえば患者さんがご自宅に帰るにはどういうサービスを組み合わせれば在宅が可能になるのか、自らハブになってつなぐことでそれを叶えてあげられる。これこそが「線でつながる医療」であって、家庭医療看護師の醍醐味であると私は思います。

仕事と家庭の両立って可能?

山﨑礼子

診療所をマネジメントする立場として、仕事とプライベートの両立をどのように図っていますか?

宮本久美

小さなお子さんにとってはお母さんがそばにいることが一番なので、希望する場合は別ですが、ある程度手が離れるまでは夜勤のないシフトにしています。子どもや家族が急に病気になったときには、ご家族を優先して、心置きなく休んでもらうようにしています。

山﨑礼子

人数が限られている中で、ほかの看護師に負担が集中してたいへんでしょ?

宮本久美

それはお互いさま。自分が何かあったときにはみんなに協力してもらうわけですから。栄町もそうでしょ?

山﨑礼子

お子さんがまだ小さい時期は外来業務のみを担当してもらっています。急に熱が出て保育園から連絡があっても、訪問診療の場合は訪問先からすぐに戻ってこられるわけではないので、クリニックに常駐できるようにしています。管理者として気をつけなければならないのは、不公平感が出ないよう配慮することかな。「あの人ばかりズルい」とならないように、訪問診療に出ないスタッフには少し責任のある仕事を持たせてがんばってもらいます。もちろん、みんな理解があるので、そこでトラブルになることはないけれど。
鷹巣さん、訪問看護の場合はどうですか?

鷹巣香織

うちは基本フレックス制で、「この日は子どもの通院があるから何時までに帰りたい」と事前に連絡をもらえれば、それまでに業務が終了するようシフト調整できるので、そういう意味では融通が利きます。子どもが急に熱を出した場合でも、すぐにスタッフの配置調整で対応するし、場合によっては利用者さんに訪問時間をずらしてもらうこともあります。

また子どもが小さい時期は、遠距離の訪問先ではなく近隣の訪問先を中心にシフトを組み、何かあったときにはすぐに戻れるようにします。その点は栄町と似ていますね。

山﨑礼子

北海道家庭医療学センターとしても産休(産前6週・産後8週)や育休(1年間)、時短勤務といった制度を設けています。実際、制度の利用は進んでいますか?

宮本久美

産休・育休を取得して、その後、職場復帰する方は多いですよ。

鷹巣香織

うちも3名の看護師が産休・育休を経て職場復帰しています。そのうち1名は2回産休・育休を取っていますが、今も子育ての傍ら活躍してくれています。

山﨑礼子

栄町でも産休・育休を2回取った方がいます。復帰後も時短勤務(18時定時→17時定時)制度を活用してがんばってくれています。

目時みちよ

制度面でのセーフティーネットがあるのはありがたいことです。でも、現場の意見としてあえていわせていただけば、それぞれの診療所の師長や管理者の方が奮闘してくださっているという側面があります。ですから、さらに福利厚生を手厚くしてバックアップしていただけると、私たちとしても、これから入職する方にとっても、もっと働きやすい環境になると思います。

一同 賛成!(拍手喝采)

ステップアップを望む方には最適な環境。

山﨑礼子

それでは最後に一言ずつお願いします。

目時みちよ

私たちの診療所がある寿都町は日本海に面したまちで、四季折々、おいしい海の幸が楽しめます。春はカキ、夏はウニ、秋はサケ。脂がのったホッケも最高です!食べ物の魅力はもちろんですが、冬はスキーも楽しめます。温泉もあり、自然もいっぱい。魅力の詰まった地域です。そうした豊かな環境の中で骨太の家庭医療に触れられる。地域医療に興味があるなら、一度は経験して欲しいと思います。

宮本久美

今日の座談会では、家庭医療診療所と他の病院や診療所とのギャップを中心にお話をしまし。もしかすると「なんだか難しそう」というイメージを持たれたかもしれません。でも、決してハードルが高いわけではなく、逆にこれまでのご自身の経験が必ず生かせるフィールドです。他科で学んできたことが、ここにいる一人ひとりの学びにつながるのだから診療所全体としても大きなメリットになります。

鷹巣香織

訪問診療に精通した家庭医と一緒に働けることは、訪問看護師にとってとても幸せなことです。この仕事は看護師としてはもちろん、いろいろな方との関わりを通じて人間的にも成長できるセッティングだと私は自信を持っておすすめします。

山﨑礼子

北海道家庭医療学センターの家庭医は一人ひとりの患者さんに親身になって向き合い、患者さんに伴走します。まさに「患者中心の医療」です。そうした姿をそばで見て、家庭医のパートナーとして医療に携わる中で、看護師として得られることはものすごくたくさんあります。家庭医療、地域医療に興味のある方にはぜひ飛び込んでほしいですね。

皆さん本日はありがとうございました。

PAGE TOP