病院で感じたモヤモヤ。
高校生のときに、祖母が病気で亡くなりました。亡くなる前にお見舞いに行くと、つらそうな祖母の体を看護師さんがさすってくれていました。苦しむ祖母に私は何もしてあげられないのに、看護師さんはすごいな、看護師って温かくて素敵な仕事だなと思うようになりました。
看護学校を出た私は総合病院に入職し、外来を担当しました。医師1人が毎日50人以上の患者さんを診るような状態で、先生も私たちもとにかく目の前の業務をこなすのに必死。一生懸命仕事を覚えながらも、「こういうことをしたかったのかな、私?」と思い悩むようになりました。その後、病棟に配属になり、足浴や食事介助など、患者さんに寄り添うようなケアも増え、もどかしさは少し解消されました。ただ、それでもどこかでモヤモヤした気持ちを抱えていたんです。モヤモヤの正体はよくわからなかったけれど……。
10年前に夫の仕事の関係で寿都に引っ越し、縁あって訪問看護の仕事に就きました。訪問看護では医療的ケアだけではなく、日常生活の支援や指導を行います。利用者さんの生活リズムや習慣を変えることは簡単ではなく、病院とは違う難しさがありました。仕事は楽しく、やりがいも感じていましたが、もっと臨床経験を積みたいと考えていたときに、こちら(寿都診療所)から声をかけていただきました。
正直にいうと、病棟があるのを除けばごく普通の診療所だと当時は思っていたんです。
寿都診療所で働くようになって驚いたのは幅の広さです。患者さんは赤ちゃんから高齢者まで幅広く、疾患も風邪、骨折、難病など幅広い上に、外来、病棟、救急、訪問診療にも対応しています。在宅へ移行するための退院調整、他院への転院手続き、行政や介護職といった多職種の連携など、業務の幅も広い。
こちらへ来て7年目ですが、これまで培った技術や知識が日々試されていると感じるし、実践を通して新しいことも吸収できる。看護師としてレベルアップできる環境だと実感しています。
すべては患者さんのため。
寿都診療所で働くようになって驚いたのはもう一つ、医師と看護師の距離の近さです。ここでは医師と看護師がフラットな関係性にあり、さまざまなことを情報共有し、ディスカッションします。もちろん最終的な治療方針は先生が決めますが、私たち看護師の意見を尊重し、提案を受け入れてくださることも頻繁にあります。いつも話しやすい雰囲気を作ってくださるので、何でも相談でき、患者さんのより良いケアにつながっていると感じます。
患者さんやご家族が本当に望んでいることは何か? 患者さんにとっていま一番必要なケアは何か? 身体のケアはもちろん、患者さん一人ひとりの思いに寄り添う姿を目の当たりにしながら、「患者中心の医療」ってこういうことなんだ、「患者中心の看護」がここなら実践できるんだと実感しています。
寿都診療所に入った当初、家庭医療についてほとんど何も知りませんでした。入職後に「家庭医療とは?」といった講義を受けましたが、聞いただけでは理解しづらい部分もありました。ですが、ここで何年も診療を実践し、自分自身の看護を振り返るうちに、家庭医療がスッと体に入ってきました。幅広い業務も、たくさんの会議も、すべて患者さんのためになっている。だからどんなに忙しくてもモヤモヤすることはないし、楽しく仕事ができていると心から思います。
子育てをしながらの仕事は大変です。子どももまだ小さいのでしょっちゅう熱を出します。これまでは私と夫のどちらかが仕事を休んで、面倒を見ていました。2022年4月に病児保育施設(なないろ)が診療所に併設されてからは、気兼ねなく預けられるようになり、本当に助かっています。もちろん急なお休みのお願いにも、診療所は快く応じてくださいます。家庭の状況に応じた業務内容の相談にも乗ってもらえます。子育てと仕事を両立できる環境を整えてくださるのは本当にありがたいこと。毎日、とっても充実しています。
プロフィール
菅原 美幸
看護師
寿都町立寿都診療所
総合病院、訪問看護ステーションを経て2017年より寿都診療所勤務。